INFECTIOUS DISEASE COLUMN
福岡でも報告されているSFTSとは?
― 九州のダニ媒介感染症を整理します
近年、
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)という感染症がニュースになる機会が増えています。
特に九州・西日本では毎年患者報告があり、
「マダニ感染症」として耳にしたことがある方もいるかもしれません。
一方で、
一般外来で日常的に遭遇する感染症ではなく、
過度に恐れるよりも、
「どういう場面で疑うべきか」
を冷静に知っておくことが大切です。
SFTSとは?
SFTSは、
重症熱性血小板減少症候群
(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)
の略称です。
SFTSウイルスによる感染症で、
主にマダニに刺されることで感染します。
主な症状は、
発熱、
強い倦怠感、
食欲低下、
下痢、
嘔吐などの消化器症状です。
血液検査では、
血小板減少、
白血球減少に加え、
AST、ALT、LDH、CKなどの上昇を認めることがあります。
SFTSは重症化しうる感染症です
SFTSは、
日本紅斑熱やつつが虫病と比べても、
重症化リスクが高いことが特徴です。
国内報告では、
致命率はおおむね10〜30%前後とされています。
特に高齢者や基礎疾患のある方では重症化しやすいことが知られています。
発疹が目立たないことがあります
日本紅斑熱やつつが虫病では、
発疹や「刺し口(eschar)」が重要な診断の手がかりになります。
一方でSFTSでは、
明らかな発疹や刺し口が目立たないことがあります。
むしろ、
高熱、
強い倦怠感、
消化器症状、
血小板減少などが重要な特徴です。
SFTSの歴史と九州
SFTSは、
比較的新しく認識された感染症です。
中国で2000年代後半に問題となり、
日本では2012年に初めて患者報告が行われました。
当初は、
「海外由来の特殊な感染症」
という印象もありましたが、
その後の解析で、
日本国内にも以前から存在していたことが分かっています。
西日本を中心に報告されています
SFTSは、
現在でも西日本を中心に報告されています。
特に九州、中国、四国地方で症例報告が多く、
野生動物やマダニ分布との関連が考えられています。
院長自身も当時の空気感を覚えています
院長自身、
日本初報告例の頃は下関市内の病院へ勤務しており、
「西日本で新しい重症ダニ感染症が報告された」
という当時の空気感をよく覚えています。
その後、
九州・中国地方を中心に症例報告が蓄積され、
現在では
「西日本では知っておくべき感染症」
の1つとして位置づけられています。
福岡県ではどれくらい報告がある?
福岡県では、
日本紅斑熱やつつが虫病は毎年散発的に報告されています。
一方で、
一般外来で日常的に遭遇するほど頻度が高い感染症ではありません。
例えば宮崎県などでは、
日本紅斑熱・つつが虫病・SFTSの報告数が福岡県より多く、
九州内でも地域差があります。
「マダニ」とは?
一般に「ダニ」と言うと、
家の中の小さなダニをイメージする方が多いかもしれません。
しかし、
SFTSや日本紅斑熱を媒介するマダニは、
草むら、
山林、
農地などに生息する比較的大型のダニです。
生息場所
草むら、山林、畑
大きさ
数mm(吸血前)〜1cm以上(吸血後)
特徴
長時間皮膚へ付着します
無理に引き抜かない方が安全です
無理に引っ張ると、
口の部分が皮膚内に残ることがあります。
気づいた場合は、
皮膚科や外科などでの処置が推奨されます。
SFTS・日本紅斑熱・つつが虫病の違い
| 疾患 | 原因 | 媒介 | 特徴 | 治療 |
|---|---|---|---|---|
| SFTS | SFTSウイルス | マダニ |
発熱、消化器症状、血小板・白血球減少。 刺し口は不明瞭なことがあります。 |
抗菌薬は無効。 全身管理が重要です。 |
| 日本紅斑熱 | リケッチア | マダニ | 発熱、発疹、特徴的な刺し口 | ドキシサイクリンなどが有効 |
| つつが虫病 | オリエンチア | ツツガムシ | 発熱、発疹、特徴的な刺し口 | ドキシサイクリンなどが有効 |
「ツツガムシ」はマダニとは別です
つつが虫病を媒介する「ツツガムシ」は、
マダニとは異なる生物です。
非常に小さく、
幼虫だけが人へ寄生します。
「つつが」は古語で「病気・災い」を意味し、
「つつがなく」の語源としても知られています。
抗菌薬が効く病気・効かない病気があります
日本紅斑熱やつつが虫病では、
ドキシサイクリンなどの抗菌薬が有効です。
一方、
SFTSはウイルス感染症であるため、
抗菌薬は効果がありません。
そのため、
リケッチア症との正確な鑑別と、
早期の全身管理が重要です。
状況によっては、
基幹病院で抗ウイルス薬などが検討されることがあります。
どんな時に疑う?
大切なのは、
「SFTSかどうかを自分で診断すること」
ではありません。
草むら、
山林、
農作業後に、
高熱、
強い倦怠感、
食欲低下、
下痢、
嘔吐などがある場合、
「ダニに刺されたかもしれない」
という情報を医療機関へ伝えることが重要です。
曝露歴
草むら、畑、山林
SFTSで多い
高熱、倦怠感、下痢
リケッチア症で多い
発疹、刺し口
重症サイン
SFTSでは、
意識障害、
見当識障害、
けいれん、
紫斑や出血傾向などを伴うことがあります。
このような場合は、
一般外来で様子を見る段階ではなく、
救急・基幹病院での対応が必要です。
犬・猫からの感染にも注意が必要です
近年、
SFTSでは、
発症した犬や猫から人へ感染したと考えられる事例も報告されています。
体調不良のペットとの接触に注意
発熱、
元気消失、
下痢、
嘔吐などのある犬・猫の血液、
体液、
唾液へ直接触れることで、
マダニを介さず感染するリスクがあります。
看病時は、
手袋やマスクを使用し、
早めに動物病院へ相談してください。
予防の基本
屋外活動時
- 長袖・長ズボン
- 足首を覆う
- 肌の露出を減らす
- 草むらへ直接座らない
帰宅後
- 衣類確認
- シャワー
- 皮膚チェック
- マダニを無理に抜かない
当院での考え方
SFTSは、
当院で日常的に遭遇する感染症ではありません。
ただし、
九州では現実に報告されている感染症であり、
草むら、
山林、
農作業後の発熱では、
鑑別に入れる必要があります。
重要なのは「曝露歴」です
草むらへ入った、
畑仕事をした、
マダニに刺された、
体調不良の犬・猫を看病した、
という情報は、
診断の重要な手がかりになります。
医療現場では院内感染対策も重要です
通常の日常生活で人から人へ広がる感染症ではありません。
しかし、
医療現場では、
患者さんの血液・体液への曝露や、
気道吸引などでの飛沫曝露による院内感染リスクが報告されています。
標準予防策、
接触予防策が重要です。
よくある質問
Q.福岡市内でもありますか?
福岡県では、
日本紅斑熱やつつが虫病、
SFTSが散発的に報告されています。
Q.マダニに刺されたら必ずSFTSになりますか?
いいえ。
必ずSFTSになるわけではありません。
ただし、
刺された後の発熱や強い倦怠感では受診が必要です。
Q.人から人へうつりますか?
通常の日常生活では広がりません。
ただし、
血液・体液曝露などでは感染リスクが報告されています。
Q.犬や猫から感染しますか?
発症した犬・猫の体液との濃厚接触で感染したと考えられる報告があります。
Q.つつが虫病と同じですか?
同じではありません。
原因微生物も治療も異なります。
参考資料
- 福岡県感染症週報
- 福岡県:SFTS・日本紅斑熱・つつが虫病関連情報
- 国立健康危機管理研究機構(JIHS)
- 厚生労働省:ダニ媒介感染症
- 日本感染症学会
INFECTIOUS DISEASE
草むら・農作業後の発熱でお困りの方へ
九州では、
SFTS、日本紅斑熱、つつが虫病などのダニ媒介感染症が実際に報告されています。
草むら、
山林、
農作業後の高熱や強い倦怠感では、
「ダニ曝露の可能性」
を医療機関へ伝えることが重要です。

