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RESPIRATORY & ENT COLUMN
喘息の検査をしていたら、
実は鼻に原因が見つかることがあります
長引く咳や喘息で受診された患者さんの中に、
「実は鼻の病気が関係していた」という方がおられます。
特に近年注目されているのが、
好酸球性副鼻腔炎(ECRS)です。
ECRSは単なる蓄膿症ではなく、
厚生労働省の指定難病にもなっている病気です。
当院では、呼気一酸化窒素(FeNO)が非常に高い方や、血液中の好酸球が多い方では、
「気道全体の強い2型炎症」を考え、嗅覚障害や鼻茸の有無も確認することがあります。
鼻と気管支は、一続きの気道だからです。
鼻の病気ですが喘息と深く関係します
鼻と気管支は一続きの気道(One Airway)です。
厚生労働省の指定難病です
一般的な副鼻腔炎とは異なる病態です。
生物学的製剤(分子標的薬)の選択肢もあります
鼻と気管支の炎症をあわせて考える時代になっています。
好酸球性副鼻腔炎(ECRS)とは?
好酸球性副鼻腔炎(ECRS:Eosinophilic Chronic Rhinosinusitis)は、
白血球の一種である「好酸球」が副鼻腔の粘膜に過剰に集まり、
慢性的な炎症を起こす難治性の病気です。
一般的な副鼻腔炎、いわゆる蓄膿症は細菌感染が関係することが多いのに対し、
ECRSではアレルギーに似た「2型炎症」という免疫反応が中心になります。
そのため、抗生物質だけでは改善しにくいことがあり、
左右両方の鼻に鼻茸(ポリープ)ができやすい、
嗅覚障害(においが分かりにくい)が目立つ、
といった特徴があります。
手術後も再発することがあり、
厚生労働省の指定難病306にも指定されています。
主な症状
嗅覚障害、強い鼻づまり、粘り気のある後鼻漏
病態の特徴
両側性の鼻茸、好酸球性炎症、再発しやすい経過
関連疾患
成人気管支喘息、重症喘息、アスピリン喘息
「ただの頑固な蓄膿症」とは限りません
かつて慢性副鼻腔炎として一括りにされていたものの中に、
好酸球性炎症を主体とする難治性の病態が含まれていることが分かってきました。
細菌感染が中心の副鼻腔炎と、
好酸球性炎症を主体とするECRSでは、
治療方針が異なる場合があります。
FeNOが100ppbを超えているとき、呼吸器専門医は何を考えるか
当院では、長引く咳や息苦しさで受診された患者さんに対し、
喘息診療の一環として
FeNO(呼気一酸化窒素)検査を行うことがあります。
FeNOは、気管支の好酸球性炎症の強さを数値化する検査です。
喘息の診断、治療方針の判断、吸入ステロイド治療への反応性を考えるうえで役立ちます。
FeNO 100ppb以上では「なぜここまで高いのか」を考えます
FeNOが20〜30ppb程度の軽度上昇を示すことは、
外来でも珍しくありません。
しかし、100ppbを超えるような高値を認めた場合には、
単に「喘息らしいですね」で終わらせず、
なぜここまで高いのかを考えます。
FeNO検査そのものは気管支の炎症を反映する検査ですが、
ここまで好酸球性炎症が強い場合には、
一続きである上気道、つまり鼻や副鼻腔にも炎症が隠れていないかを確認します。
FeNO高値でまず確認すること
- 喘息のコントロール不良
- 吸入ステロイド薬の不足
- 吸入手技のエラーや吸い忘れ
- アレルギー性鼻炎など上気道炎症の関与
FeNO 100ppb以上で意識する病気
- 好酸球性副鼻腔炎(ECRS)
- アスピリン喘息(AERD)
- アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)
- 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)
ABPAやEGPAなど、別の病気が隠れていることもあります
ABPAは、アスペルギルスというカビ(真菌)に対するアレルギー反応が関係する、
特殊な喘息・肺疾患です。
喘息として治療していても、痰が多い、肺の影が繰り返す、
好酸球やIgEが高い場合などに疑います。
EGPAは、好酸球が関与する血管炎の一つで、
国の指定難病です。
喘息、好酸球増加、しびれ、皮疹、副鼻腔炎などが組み合わさることがあります。
FeNOが高いだけでこれらの病気と決まるわけではありませんが、
数字だけでなく、全身症状、血液検査、画像検査を含めて判断することが大切です。
FeNO高値では、鼻の症状も確認します
FeNOが3桁台の患者さんでは、
気管支だけでなく、鼻や副鼻腔の状態も確認します。
例えば、
「においが分かりにくくなっていませんか」
「鼻茸を指摘されたことはありませんか」
「副鼻腔炎の手術歴はありませんか」
といった質問をします。
これらに該当する場合、
耳鼻咽喉科での評価をお願いし、
結果としてECRSが見つかることがあります。
鼻と気管支は一続きの気道です
鼻・副鼻腔と気管支・肺は別々の臓器に見えますが、
空気の通り道としては一続きです。
この考え方は、
「One Airway, One Disease」
と表現されることがあります。
上気道(鼻)
鼻閉、鼻汁、嗅覚障害
副鼻腔
鼻茸、後鼻漏、慢性炎症
下気道(気管支)
咳、喘鳴、息苦しさ
「咳喘息」と思っていたら、実は喘息とECRSが隠れていることもあります
長引く咳だけが目立つ場合、
最初は咳喘息として治療が始まることがあります。
しかし、
FeNOが非常に高い、
血液好酸球が多い、
嗅覚障害や鼻茸の指摘歴がある、
といった場合には、咳喘息だけでは説明しきれないことがあります。
そのような場合には、
ECRSを合併した喘息、あるいはその前段階として考える必要があります。
部分的な症状だけでなく、気道全体を俯瞰して評価することが大切です。
アスピリン喘息(AERD)と鼻茸・解熱鎮痛薬の注意点
ECRSや鼻茸を伴う喘息では、
アスピリン喘息(AERD:Aspirin-Exacerbated Respiratory Disease)
にも注意が必要です。
「アスピリン」という名前ですが、アスピリンだけの問題ではありません
この病名は歴史的にアスピリンとの関連から呼ばれていますが、
実際にはアスピリン以外のNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)でも、
喘息発作や鼻症状の急な悪化が誘発されることがあります。
ロキソプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナクなどのNSAIDs、
一部の市販の解熱鎮痛薬、
さらに湿布薬などの外用消炎鎮痛薬でも注意が必要です。
「アスピリンは飲んでいないから大丈夫」
「飲み薬ではないから大丈夫」
とは限らない点が重要です。
喘息
咳、喘鳴、息苦しさがあり、
成人発症の喘息として見つかることがあります。
鼻茸
両側性の鼻茸、鼻づまり、嗅覚障害を伴うことがあります。
NSAIDs不耐
解熱鎮痛薬や外用消炎鎮痛薬で症状が悪化することがあります。
痛み止めや湿布薬で息苦しくなった経験は重要です
市販の解熱鎮痛薬を飲んだ後に急に息苦しくなった、
咳や喘鳴が強くなった、
鼻づまりが急に悪化した、
という経験がある方は注意が必要です。
また、湿布薬などの外用消炎鎮痛薬を使用した後に、
咳、喘鳴、息苦しさ、鼻症状の悪化を感じたことがある場合も、
診察時に必ずお伝えください。
ECRS、鼻茸、喘息がある方では、
AERDを合併していないか確認することが大切です。
アセトアミノフェンも「絶対安全」ではありません
AERDの方でも、
一般的にアセトアミノフェンは比較的使用しやすい解熱鎮痛薬とされています。
ただし、高用量では発作を誘発する可能性があり、
「市販薬だから大丈夫」と自己判断で使用するのは危険です。
過去に痛み止めや湿布薬で息苦しくなったことがある方は、
使用できる薬と適切な量について、必ず医師にご相談ください。
喘息合併ECRSの包括的治療戦略
ECRSの直接的な評価、
例えば鼻内視鏡、副鼻腔CT、鼻茸の評価、手術適応の判断などは、
耳鼻咽喉科の領域です。
しかし、一続きの気道に起きている炎症をコントロールするためには、
呼吸器内科による喘息治療の最適化も重要です。
ステロイド内服薬の長期使用には注意が必要です
ECRSや重症喘息に対して、
ステロイド内服薬が症状を改善することがあります。
しかし、効果があるからといって、
長期間にわたってステロイド内服を続けたり、
自己判断で繰り返し使用したりすることには注意が必要です。
骨粗鬆症、糖尿病、感染症、白内障・緑内障、副腎不全など、
全身の副作用が問題になることがあります。
現在は、ステロイド内服をできるだけ減らすための治療選択肢も増えています。
生物学的製剤(分子標的薬)という選択肢もあります
手術後も再発を繰り返すような重症のECRSや、
鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎では、
生物学的製剤(分子標的薬)による治療が検討されることがあります。
代表的な薬剤として、
IL-4/IL-13のシグナルを抑えるデュピクセント(デュピルマブ)や、
IL-5を標的とするヌーカラ(メポリズマブ)などがあります。
これらの薬剤は、鼻茸や嗅覚障害に対する効果だけでなく、
合併する気管支喘息の炎症にも良い影響を与えることがあります。
一方で、生物学的製剤は高額な薬剤です。
高額療養費制度や、重症例では指定難病の医療費助成の対象になるかどうかも含めて、
耳鼻咽喉科と連携しながら慎重に検討します。
当院での対応
当院は呼吸器内科クリニックであり、
耳鼻科で行う鼻内視鏡検査、副鼻腔CT、鼻茸の切除手術、
指定難病の新規申請手続きを直接行うことはできません。
しかし、長引く咳や異常なFeNO高値から、
背景にあるECRSやAERDを疑い、
必要な耳鼻咽喉科評価へつなぐ窓口として対応しています。
呼吸器内科(当院)の役割
- 嗅覚障害・鼻茸・鎮痛薬不耐の確認
- FeNOによる下気道炎症評価
- 血液検査による好酸球数・総IgEの確認
- 吸入ステロイド薬を含む喘息治療の最適化
- 必要時の耳鼻咽喉科への紹介
耳鼻咽喉科で確認すること
- 鼻内視鏡による鼻茸の評価
- 副鼻腔CTによる陰影・病変の評価
- 内視鏡下副鼻腔手術(ESS)の適応判断
- 病理組織検査による確定診断
- 指定難病306の申請可否の判断
診断後も、鼻と気管支をあわせて考えます
耳鼻科で手術や難病申請を行った後も、
気管支の喘息管理は継続して必要になることがあります。
上気道の状態が落ち着くことで喘息が改善することもあれば、
逆に喘息のコントロール不良が鼻症状に影響することもあります。
当院では、耳鼻咽喉科と連携しながら、
鼻と気管支を一続きの気道として考え、
喘息・咳の管理を継続します。
よくある質問
Q.ECRSは普通の蓄膿症と何が違いますか?
一般的な副鼻腔炎では細菌感染が関係することが多いのに対し、
ECRSでは好酸球というアレルギーに関わる免疫細胞が中心になります。
そのため抗生物質だけでは改善しにくく、
鼻茸、嗅覚障害、喘息との合併、再発しやすい経過が問題になります。
Q.FeNOが高いと、鼻が悪いということですか?
いいえ。FeNOは主に気管支の好酸球性炎症を反映する検査です。
ただしFeNOが100ppbを超えるような高値の場合、
気道全体に強い2型炎症がある可能性を考えます。
そのため、嗅覚障害、鼻茸、慢性副鼻腔炎の既往がないかを確認し、
必要に応じて耳鼻咽喉科での評価をおすすめします。
Q.痛み止めや湿布薬で息苦しくなったことがあります。関係ありますか?
関係することがあります。
喘息、鼻茸、ECRSがある方では、
アスピリン喘息(AERD)を合併していることがあります。
ロキソプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナクなどのNSAIDs、
一部の市販の解熱鎮痛薬、湿布薬などの外用消炎鎮痛薬で、
咳、喘鳴、息苦しさ、鼻づまりの急な悪化を経験したことがある方は、
必ず診察時にお伝えください。
Q.難病申請の手続きは、こちらの呼吸器内科でできますか?
好酸球性副鼻腔炎(指定難病306)の新規難病申請手続きは当院では行っておりません。
ECRSの診断には、耳鼻咽喉科での鼻内視鏡、副鼻腔CT、手術時の病理組織検査などが重要になります。
当院で病態を疑った場合は、診断・治療・難病申請を担当する耳鼻咽喉科での評価をおすすめします。
Q.指定難病になると何が変わるのですか?
重症例で医療費助成の対象となった場合には、自己負担額が軽減されることがあります。
その結果、継続通院、手術後管理、生物学的製剤による治療などを受けやすくなる場合があります。
ただし、すべてのECRS患者さんが医療費助成の対象になるわけではなく、
診断基準や重症度基準を満たす必要があります。
Q.デュピクセントなどの生物学的製剤は誰でも使えますか?
誰でもすぐに使える薬ではありません。
既存の標準治療を行っても十分に効果が得られない、
重症の鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎や重症喘息などで適応を検討します。
また高額な薬剤であるため、
高額療養費制度や指定難病の医療費助成の対象になるかどうかも含めて、
耳鼻咽喉科と呼吸器内科で連携しながら判断します。
Q.においが以前より分かりにくいのですが、喘息と関係ありますか?
関係することがあります。
成人の喘息患者さんで、徐々ににおいが分かりにくくなってきた場合、
好酸球性副鼻腔炎(ECRS)や鼻茸を合併している可能性があります。
嗅覚障害はECRSで重要な症状の一つですので、
呼吸器のコントロールとあわせて耳鼻咽喉科での評価をおすすめします。
RESPIRATORY CARE
長引く咳・喘息と鼻症状でお困りの方へ
気管支の喘息と、難治性の鼻の病気(ECRS)は、根っこでつながっていることがあります。
FeNO高値、血液好酸球増加、嗅覚障害、痛み止めや湿布薬での息苦しさに心当たりがある方は、
気道全体を見据えた評価が大切です。
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