GENERAL INTERNAL MEDICINE COLUMN
健診で「腎機能が悪い」と言われたら
〜クレアチニン・eGFR・尿蛋白をどう読むか〜
健康診断で「クレアチニンが少し高い」「eGFRが低い」「尿蛋白が陽性」と言われると、
すぐに透析を連想して不安になる方がいます。
しかし、腎機能はクレアチニンだけでは判断できません。
eGFR、尿蛋白、血圧、糖尿病、動脈硬化、薬剤、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などを含めて、
全身の血管病・心腎代謝連関として考えることが重要です。
Cre単独では読めません
クレアチニンは筋肉量の影響を受けます。
軽度高値だけでCKDと断定することも、正常値だけで安心することもできません。
尿蛋白が重要です
健診では多くの場合、試験紙法による尿蛋白を確認します。
尿蛋白陽性は腎臓だけでなく全身血管障害の手がかりになります。
CKDは全身疾患です
CKDは透析リスクだけでなく、心筋梗塞、脳卒中、心不全、死亡リスクとも関連します。
健診の腎機能異常は、過度に恐れる必要はありません。
しかし、放置してよい所見でもありません。
「腎臓だけを見る」のではなく、血圧・尿所見・代謝・睡眠・薬剤まで含めて整理することが大切です。
クレアチニン(Cre)は「筋肉量依存」のマーカーです
クレアチニン(Cre)は、筋肉中のクレアチン代謝に由来する老廃物です。
腎機能が低下すると上昇しますが、同時に筋肉量の影響を強く受けます。
そのため、同じクレアチニン値でも、年齢・性別・体格・筋肉量によって意味が変わります。
「Creが少し高い」だけで腎臓病と断定することはできません。
Creが高めに見えやすい状況
- 筋肉量が多い
- 体格が大きい
- 運動直後
- 脱水
- クレアチン含有サプリメントなどの影響
Creだけでは見落としやすい状況
- 高齢者
- サルコペニア
- フレイル
- 筋肉量が少ない方
- 慢性疾患で筋肉量が低下している方
Cre正常でも腎機能低下はありえます
高齢者や筋肉量の少ない方では、クレアチニン値が一見正常でも、
実際にはeGFRが低下していることがあります。
逆に、筋肉量の多い方ではCre軽度高値のみで過度に心配しすぎないことも大切です。
Creで判断しにくい時は、シスタチンCを使うことがあります
クレアチニンは筋肉量の影響を受けるため、
筋肉量が多い方や、逆にサルコペニア・フレイルのある高齢者では、
腎機能の評価が難しくなることがあります。
そのような場合、筋肉量の影響を受けにくい血清マーカーとして、
シスタチンCを用いてeGFRを再評価することがあります。
「CreとeGFRがしっくりこない」時の補助評価です
シスタチンCは万能の検査ではありませんが、
体格や筋肉量の影響でクレアチニンによる評価が不安定な場合に役立つことがあります。
健診結果だけで判断が難しい場合は、過去データ、尿所見、血圧、薬剤歴とあわせて再評価します。
eGFRは「腎臓の濾過能力」を推定する指標です
eGFR(estimated Glomerular Filtration Rate)は、推算糸球体濾過量です。
腎臓がどの程度血液を濾過できているかを、年齢・性別・クレアチニン値などから推定します。
健診では、クレアチニン値そのものよりも、eGFRをあわせて確認することが重要です。
| GFR区分 | eGFR | 一般的な意味 |
|---|---|---|
| G1 | 90以上 | 正常または高値。ただし尿異常があればCKDの可能性があります。 |
| G2 | 60〜89 | 軽度低下。尿蛋白など他の所見と合わせて判断します。 |
| G3a | 45〜59 | 軽度〜中等度低下。持続する場合はCKDとして管理します。 |
| G3b | 30〜44 | 中等度〜高度低下。合併症や進行リスクの評価が重要です。 |
| G4 | 15〜29 | 高度低下。腎臓内科での評価を強く考えます。 |
| G5 | 15未満 | 腎不全。専門的管理が必要です。 |
eGFRは「その瞬間の数字」だけでなく、経時変化を見ます
eGFRが少し低いだけで直ちに重症とは限りません。
一方で、前年から急に低下している場合には注意が必要です。
eGFRの傾き、つまり eGFR slope を見ることは、CKD進行リスク評価に重要です。
健診の「尿蛋白」と、診療で使う「尿アルブミン」は少し違います
CKDの国際的なリスク評価では、GFR区分とアルブミン尿区分を組み合わせて考えます。
しかし、日本の一般的な健診で確認されることが多いのは、
試験紙法による「尿蛋白」です。
つまり、健診結果の紙に「尿蛋白(+)」「尿蛋白(±)」と書かれている場合、
それは通常、尿アルブミン/Cr比そのものではありません。
健診で多い検査
試験紙法による尿蛋白定性です。
「−」「±」「+」「2+」などで表示されることが多い検査です。
糖尿病・高血圧で重要な検査
尿アルブミン/Cr比は、より早期の腎障害評価に有用です。
ただし、日本の保険診療では測定できる状況に制限があります。
なぜ蛋白尿が出るのでしょうか?
腎臓の糸球体は、本来は「必要な蛋白を漏らさず、老廃物だけを濾過するフィルター」として働いています。
しかし、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、動脈硬化などによって、
糸球体や血管内皮に障害が起こると、
本来は尿中へ漏れないはずの蛋白が漏れ出すようになります。
特にアルブミン尿は、
糸球体障害だけでなく、
全身のvascular endothelial dysfunction(血管内皮障害)を反映している可能性があると考えられています。
つまり蛋白尿は、
「腎臓のフィルターが傷んでいるサイン」であると同時に、
全身血管病のサインとして捉えることが重要です。
尿蛋白陽性は、再確認が必要です
運動後、発熱、脱水、月経などで一時的に尿蛋白が陽性になることがあります。
一度の健診結果だけで判断せず、再検査や尿蛋白/Cr比などで確認します。
一方で、尿蛋白が持続する場合は、eGFRが保たれていても注意が必要です。
CKDとは「3か月以上続く腎障害」です
CKD(Chronic Kidney Disease:慢性腎臓病)は、
単にクレアチニンが一度高かった、という意味ではありません。
一般に、eGFR低下や尿異常などの腎障害が3か月以上持続する場合にCKDと考えます。
CKDを考える代表的な所見
- eGFR 60未満が3か月以上持続
- 尿蛋白・尿アルブミンが持続
- 血尿が持続
- 腎形態異常
- 病理学的異常
- 腎移植後
つまり、健診で一度だけCre高値を指摘された場合は、
まず再検査と経時的な確認が重要です。
CKDは「eGFR × 尿所見」でリスクを見ます
現代のCKD診療では、eGFRだけでリスクを判断しません。
eGFRの低下と尿蛋白・アルブミン尿の程度を組み合わせて、
CKD進行、心血管イベント、死亡リスクを評価します。
| 組み合わせ | リスクの考え方 |
|---|---|
| eGFR軽度低下のみ | 加齢や体格の影響も考慮し、尿所見と経時変化を確認します。 |
| eGFR低下+尿蛋白 | CKD進行・心血管イベントリスクが高く、管理を強化します。 |
| eGFR急速低下 | 薬剤、脱水、腎血管性病変、糸球体疾患などを考えます。 |
| 尿蛋白2+以上 | 腎臓内科での専門評価を積極的に検討します。 |
KDIGOではGFR区分とアルブミン尿区分を組み合わせたリスク分類が用いられます。
日本の健診実務では、まず尿蛋白の有無を手がかりにします。
CKDは「腎臓だけの病気」ではありません
CKDは、透析に進むかどうかだけで考える病気ではありません。
eGFR低下とアルブミン尿は、全死亡・心血管死亡の独立した予測因子であることが示されています。
つまりCKDは、腎臓の問題であると同時に、
全身血管病、心血管病、代謝異常の一部として捉える必要があります。
CKDと関連する疾患
- 高血圧
- 心不全
- 心筋梗塞
- 脳卒中
- 心房細動
- 末梢動脈疾患
CKDで見るべき軸
- 腎機能低下速度
- 尿蛋白・アルブミン尿
- 血圧
- 糖代謝
- 脂質
- 心不全リスク
「透析を防ぐ」だけでなく「心血管イベントを防ぐ」時代です
現代のCKD診療では、腎代替療法を避けることだけでなく、
心不全入院、心筋梗塞、脳卒中、死亡リスクを下げることも重要です。
高血圧はCKDの原因でも結果でもあります
高血圧はCKDを進行させます。
一方で、腎機能低下は塩分排泄能の低下、RAAS活性化、体液量増加を介して高血圧を悪化させます。
つまり、高血圧とCKDは相互に悪化し合う関係です。
塩分感受性
CKDでは塩分負荷により血圧が上がりやすくなります。
夜間高血圧
CKDやSASでは、夜間血圧が下がりにくいことがあります。
家庭血圧
診察室血圧だけでなく、家庭血圧を確認することが重要です。
CreやeGFRだけを追うのではなく、
血圧、尿蛋白、体重、塩分摂取、薬剤使用を含めて評価します。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とCKD
SASでは、間欠的低酸素、交感神経活性化、夜間高血圧、RAAS活性化などを介して、
腎臓や血管に負担がかかると考えられています。
SASは高血圧、心房細動、心不全とも関連し、
CKDを単独の腎疾患としてではなく、心腎代謝連関の中で考える理由の一つになります。
「いびき+高血圧+腎機能低下」ではSASも考えます
日中の眠気、いびき、肥満、高血圧がある方では、
背景にSASが隠れていることがあります。
当院では、睡眠時無呼吸症候群の簡易検査に対応しています。
詳しくは 睡眠時無呼吸症候群(SAS)ページ をご覧ください。
腎機能を見る時は、薬剤も確認します
健診で腎機能低下を指摘された時には、
脱水、発熱、下痢、薬剤の影響を確認します。
特に、NSAIDsと呼ばれる痛み止めを漫然と使うと、
腎機能に負担となることがあります。
注意したい場面
- 脱水時
- 発熱・下痢・食事摂取不良
- 高齢者
- CKDがある方
- 利尿薬、RAAS阻害薬、SGLT2阻害薬などを使用中
確認したい薬剤
- 市販の痛み止め
- NSAIDs
- 利尿薬
- ACE阻害薬・ARB
- SGLT2阻害薬
- サプリメント
NSAIDsは内服薬だけではありません
NSAIDsは、一般には「痛み止め」「解熱鎮痛薬」として使われる薬です。
内服薬だけでなく、湿布や塗り薬にも含まれることがあります。
代表的な成分には、ロキソプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナクなどがあります。
市販薬や処方薬の中に含まれていることもあるため、
腎機能低下を指摘された方は、使用中の薬を確認することが大切です。
湿布や塗り薬は内服薬より全身への影響は少ないことが多いものの、
腎機能が低下している方、高齢の方、広範囲・長期間に使用している方では注意が必要です。
低用量アスピリンは自己中断しないでください
心筋梗塞や脳梗塞の予防などで低用量アスピリンを処方されている方は、
自己判断で中止しないでください。
ここで注意しているのは、主に痛み止めとして使うNSAIDsの漫然使用です。
処方薬・市販薬を含め、心配な場合は内服内容を確認します。
現代のCKD治療は、心腎代謝をまとめて考えます
CKD治療は、単にクレアチニンを下げる治療ではありません。
血圧、尿蛋白、糖代謝、心不全リスク、生活習慣をまとめて管理します。
生活・血圧管理
- 減塩
- 家庭血圧管理
- 禁煙
- 体重管理
- NSAIDsの漫然使用を避ける
RAAS阻害薬
蛋白尿を伴うCKDでは、ACE阻害薬やARBが重要になることがあります。
血圧、K値、腎機能を見ながら使用します。
SGLT2阻害薬
DAPA-CKD、EMPA-KIDNEYなどにより、
糖尿病の有無にかかわらずCKD進行抑制が期待される薬剤として位置づけが変わりました。
SGLT2阻害薬は、心腎代謝連関の中で理解します
SGLT2阻害薬は、もともと糖尿病治療薬として使われていました。
しかし近年は、腎保護・心不全入院抑制のエビデンスが蓄積し、
CKDと心不全をまたぐ薬剤として重要になっています。
ただし、適応、eGFR、脱水リスク、感染症、併用薬などを確認して使用する必要があります。
すべての方に必要な薬ではありません。
腎臓内科へ紹介を考える所見
軽度のCre高値やeGFR低下だけで、全員が腎臓内科を受診する必要はありません。
ただし、以下のような場合は専門的評価を考えます。
日本の紹介基準も参考にします
日本では、年齢、eGFR、尿蛋白の程度を踏まえて、
かかりつけ医から腎臓専門医へ紹介する基準が示されています。
たとえば、eGFR 40未満、尿蛋白2+以上、蛋白尿と血尿の合併、
年齢に比して腎機能低下が強い場合などでは、腎臓内科紹介を考えます。
紹介を考えやすい所見
- eGFR 40未満
- 尿蛋白2+以上
- 蛋白尿と血尿の合併
- 急速なeGFR低下
- 原因不明の腎機能悪化
- 電解質異常
内科でまず確認すること
- 再検査で持続するか
- 尿蛋白・血尿
- 血圧
- 糖尿病
- NSAIDsなど薬剤
- 脱水・感染・食事・運動の影響
40〜65歳未満でeGFR 50未満、65歳以上でeGFR 40未満など、
年齢によって早めに専門医評価を考える場合もあります。
よくある質問
Q.健診でCreが少し高いと言われました。まず何を見ればよいですか?
まず、eGFR、尿蛋白、血圧、過去の健診結果との変化を確認します。
Creは筋肉量や脱水の影響も受けるため、一度の数値だけで判断しません。
Q.eGFRが60未満でした。腎臓病ですか?
3か月以上持続する場合はCKDに該当する可能性があります。
ただし、高齢者では加齢変化の影響もあり、尿所見や経時変化が重要です。
Q.健診で尿蛋白が±または+でした。
一時的に陽性になることもありますが、持続する場合は重要です。
再検査、尿蛋白/Cr比、血圧、糖尿病の有無などを確認します。
Q.尿アルブミンと尿蛋白は同じですか?
同じではありません。
健診では多くの場合、試験紙法による尿蛋白を見ています。
尿アルブミンは、糖尿病などで早期腎障害を評価するために使われることがあります。
Q.腎機能のために避けた方がよい薬はありますか?
NSAIDsと呼ばれる痛み止めを漫然と使うと、
腎機能に負担となることがあります。
内服薬だけでなく、湿布や塗り薬にも含まれることがあります。
ただし、心臓や脳血管の病気で処方されている低用量アスピリンは、
自己判断で中止しないでください。
Q.将来、透析になる可能性があるのでしょうか?
Creが少し高い、eGFRが少し低いというだけで、すぐに透析になるわけではありません。
ただし、尿蛋白が持続する場合、eGFRが年々低下している場合、
高血圧や糖尿病の管理が不十分な場合には、将来のリスク評価が必要です。
Q.SASは腎機能と関係しますか?
SASは夜間高血圧、間欠的低酸素、交感神経活性化を介して、
腎臓や血管に負担をかける可能性があります。
院長より
健診でCre軽度高値やeGFR低下を指摘されても、
それだけで過度に心配する必要はありません。
一方で、CKDは「腎臓だけの病気」ではありません。
高血圧、糖尿病、動脈硬化、心不全、睡眠時無呼吸症候群などと密接に関係します。
当院では、健診異常を単なる数字としてではなく、
血圧、尿所見、生活習慣、睡眠、心血管リスクを含めて整理することを大切にしています。
高度蛋白尿、急速なeGFR低下、原因不明の腎機能悪化などがある場合には、
腎臓内科へ紹介します。
参考資料
-
KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease.
-
厚生労働省:腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準
-
エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023
-
Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium. Association of estimated glomerular filtration rate and albuminuria with all-cause and cardiovascular mortality. Lancet. 2010.
-
Heerspink HJL, et al. Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. N Engl J Med. 2020.(DAPA-CKD)
-
EMPA-KIDNEY Collaborative Group. Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. N Engl J Med. 2023.
-
日本腎臓学会
GENERAL INTERNAL MEDICINE
健診で腎機能異常を指摘された方へ
クレアチニン高値、eGFR低下、尿蛋白、高血圧、生活習慣病について、
内科的に整理して診療します。
必要時には腎臓内科・循環器内科など専門医療機関へ紹介しています。

