COLUMN / SUBLINGUAL IMMUNOTHERAPY & PREGNANCY

妊娠中・授乳中の舌下免疫療法について

スギ花粉症やダニアレルギーに対する舌下免疫療法(シダキュア、ミティキュアなど)は、
数年単位で継続する治療です。
そのため、治療中に妊娠が分かったり、授乳期に入ったりして、
「このまま続けてよいのか」と不安になる方は少なくありません。

妊娠中・授乳中の治療では、「薬を使わないこと」が常に最善とは限りません。
一方で、舌下免疫療法はアレルゲンを体内に入れて免疫反応を調整する治療であり、
まれに全身性アレルギー反応を起こす可能性があります。

このコラムでは、妊娠中・授乳中の舌下免疫療法について、
医学論文、海外ガイドライン、国内添付文書の記載を踏まえて整理します。

開始と継続は別です

妊娠中に新しく始める場合と、妊娠前から安定して継続している場合では考え方が異なります。

授乳中も個別判断です

授乳中は、治療の必要性と母乳栄養の利益をあわせて考える必要があります。

過度な断定は避けます

重大なリスク増加は明確ではありませんが、十分なデータがあるとは言えません。

本コラムは一般的な医学情報です。実際の継続・中止は、妊娠経過、授乳状況、症状、副作用歴、喘息合併の有無などを踏まえて判断します。

妊娠中・授乳中の舌下免疫療法は、単純に「可」「不可」で決めるものではありません

舌下免疫療法は、スギ花粉やダニなどのアレルゲンを少量ずつ投与し、
体の免疫反応を少しずつ変えていく治療です。
数日で効く薬ではなく、数年かけて体質改善を目指す治療です。

そのため、妊娠や授乳という生活の節目と治療期間が重なることがあります。
この時に大切なのは、「妊娠したら必ず中止」「授乳中だから絶対に続けてよい」といった一律の判断をしないことです。

妊娠中・授乳中は、治療の利益とリスクを個別に考えます

舌下免疫療法は比較的安全性の高い治療ですが、
まれに全身性アレルギー反応やアナフィラキシーを起こす可能性があります。

妊娠中・授乳中は、母体、胎児、乳児への影響を考える必要があります。
そのため、治療を始める時期、継続するかどうか、中止するかどうかは、診療の中で慎重に判断します。

妊娠中に新しく舌下免疫療法を始めることは、通常は慎重に考えます

一般に、妊娠中に新規に舌下免疫療法を開始することは、積極的には勧められていません。
これは、胎児への明確な有害性が証明されているという意味ではありません。

理由は、治療開始初期には口腔内症状、咽頭症状、蕁麻疹などの副作用が出やすく、
まれではありますが全身性アレルギー反応が起こる可能性があるためです。

開始初期は副作用に注意する時期です

舌下免疫療法では、治療開始直後から数週間にかけて、口のかゆみ、口腔内の腫れ、
のどの違和感などがみられることがあります。

妊娠中は急がない治療を慎重に扱います

舌下免疫療法は長期的な体質改善を目指す治療であり、妊娠中に急いで始める必要がある場面は多くありません。

妊活中の方では、治療開始のタイミングをあらかじめ相談しておくことが大切です。
花粉シーズン、症状の強さ、妊娠の予定、現在使用している薬を踏まえて判断します。

妊娠前から安定して継続している場合は、そのまま続けることがあります

妊娠前から舌下免疫療法を行っており、
副作用なく安定して継続できている場合には、
妊娠後もそのまま継続されることがあります。

海外の免疫療法ガイドラインでも、妊娠は免疫療法を新たに開始する際の禁忌または慎重事項とされる一方で、
すでに良好に耐容されている免疫療法については継続が考慮される、という整理が示されています。

「妊娠したら即中止」とは限りません

妊娠が判明した時点で、必ずしも直ちに舌下免疫療法を中止しなければならないわけではありません。

ただし、妊娠経過、症状、副作用歴、喘息合併の有無によって判断は異なります。
自己判断で中止・再開せず、主治医と相談してください。

授乳中の舌下免疫療法も、治療の必要性と母乳栄養の利益をあわせて考えます

授乳中の舌下免疫療法については、妊娠中以上に十分なデータが限られています。
そのため、「授乳中でも完全に安全」と断定することはできません。

一方で、国内の添付文書では、授乳婦について
「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」
という趣旨の記載がなされています。

乳児への直接的なデータは限られています

シダキュアやミティキュアなどの舌下免疫療法薬について、授乳中の乳児への影響を十分に評価した大規模研究は限られています。

母乳栄養の利益も考慮します

授乳中の治療では、薬剤を避けることだけでなく、母乳栄養を続ける利益も含めて判断します。

授乳中に新しく始める場合は、特に慎重に考えます

授乳中に舌下免疫療法を新たに開始する場合、治療開始初期の副作用や全身性アレルギー反応への対応を考慮する必要があります。

すでに安定して継続している場合と、新しく始める場合では、判断の重みが異なります。

胎児・乳児への重大なリスク増加は明確ではありませんが、十分なデータがあるとは言えません

妊娠中のアレルゲン免疫療法に関する研究では、
重大な先天異常や流産リスクの増加を明確に示す結果は確認されていません。

ただし、妊婦や授乳婦を対象に大規模なランダム化比較試験を行うことは難しく、
妊娠・授乳中の舌下免疫療法について「安全性が完全に確立している」とは言えません。

したがって、実臨床では、
「妊娠・授乳中の新規開始は慎重に考える」
「妊娠前から安定して継続している場合は個別に継続を検討する」
という整理が現実的です。

参考:

Greenhawt M, et al. Sublingual immunotherapy: A focused allergen immunotherapy practice parameter update. Ann Allergy Asthma Immunol. 2017.

妊娠中・授乳中のアレルギー治療では、「何もしない」ことが最善とは限りません

妊娠中・授乳中は薬を避けたいと感じる方も多いと思います。
しかし、強い鼻炎症状や喘息症状を我慢し続けることが、必ずしもよい結果につながるとは限りません。

睡眠障害、強い鼻閉、咳、喘鳴、息苦しさが続くと、母体の生活の質を大きく下げます。
特に喘息では、症状を放置せず、安定したコントロールを保つことが大切です。

鼻炎・花粉症の薬

妊娠中・授乳中でも使用経験のある薬剤が選択されることがあります。
妊娠週数や授乳状況に応じて、必要最小限かつ安全性を考慮して選びます。

喘息治療

喘息を合併している場合、自己判断で吸入薬を中止しないことが大切です。
喘息の悪化そのものが母体・胎児へ影響することがあります。

舌下免疫療法だけでなく、抗ヒスタミン薬、点鼻薬、吸入薬なども含めて、
現在の症状に対して何が最も安全で合理的かを考える必要があります。

よくあるご質問

Q.妊娠したらシダキュアやミティキュアは中止した方がよいですか?

妊娠前から副作用なく安定して継続している場合には、そのまま継続されることがあります。
ただし、妊娠経過、症状、副作用歴、喘息合併の有無によって判断は異なります。

Q.妊娠中に新しく舌下免疫療法を始めてもよいですか?

一般には慎重に考えます。
開始初期は副作用が出やすく、まれに全身性アレルギー反応が起こる可能性があるためです。

Q.授乳中にシダキュアやミティキュアを続けてもよいですか?

授乳中の安全性データは限られています。
国内添付文書では、治療上の有益性と母乳栄養の有益性を考慮して、授乳の継続または中止を検討するとされています。

Q.授乳中に新しく舌下免疫療法を始めてもよいですか?

新規開始は慎重に判断します。
治療開始初期の副作用や全身性アレルギー反応への対応を考える必要があるためです。

Q.胎児や赤ちゃんへの影響はありますか?

現時点で重大なリスク増加は明確ではありません。
ただし、妊娠中・授乳中の舌下免疫療法について十分なデータがあるとは言えないため、個別判断が必要です。

Q.妊娠中や授乳中は花粉症の薬も避けた方がよいですか?

症状が強い場合には、治療を行った方が生活の質や睡眠が改善することがあります。
妊娠週数、授乳状況、症状の強さに応じて、使用経験のある薬を選択することがあります。

院長より

妊娠中・授乳中の治療では、
「安全だから何も考えず続ける」ことも、
「不安だからすべて中止する」ことも、
どちらも医学的には十分ではありません。

舌下免疫療法は、花粉症やダニアレルギーに対する有用な治療ですが、
アレルゲンを投与する治療である以上、副作用の可能性を完全にゼロにはできません。

妊娠中の新規開始は通常慎重に考えます。
一方で、妊娠前から安定して続けられている方では、
妊娠後も継続を検討することがあります。

授乳中についても、十分なデータが多いとは言えません。
しかし、母乳栄養の利益や、母体のアレルギー症状を安定させる利益もあわせて考える必要があります。

妊娠・授乳中だからこそ、治療を単純化せず、
症状、副作用歴、生活への影響、妊娠・授乳の状況を踏まえて、
できるだけ安全で無理のない選択を一緒に考えることが大切です。

SUBLINGUAL IMMUNOTHERAPY CONSULTATION

妊娠中・授乳中の舌下免疫療法についてご相談ください

舌下免疫療法は、妊娠中・授乳中に一律で中止または継続を決める治療ではありません。
新規開始か、安定継続中か、授乳中かによって判断が異なります。

シダキュア、ミティキュアなどの継続可否や、妊娠・授乳中のアレルギー治療について不安がある方はご相談ください。